東京・虎ノ門ヒルズに昨年オープンした信濃屋「cask」。生産者や地域と消費者をつなぐ、食とお酒のメディアをコンセプトに掲げた、信濃屋の新店舗。
地域最大級のワインセラーには、世界各国のワインだけでなく、日本各地の個性豊かなワインがずらり。店内には各地のワイナリー情報も並び、造り手の想いが伝わる空間になっています。
創業からおよそ100年。輸入酒と食文化を軸に東京・横浜で17店舗を展開する信濃屋で、今もっとも注目を集めるのがワインバイヤーでありソムリエの加藤雅也さんです。日本ワインの今とこれからについて伺いました。
食の魅力を伝える新拠点 信濃屋「cask」
「お客様に食文化の魅力を伝えたい―それが信濃屋の根本にある考え方です。各店舗やスタッフ、各ポジションでその理念をどう形にするかを考え、日々挑戦しています。そして最も新しい挑戦が、この虎ノ門ヒルズ『cask(カスク)』です」。
虎ノ門ヒルズ周辺は、平日ならランチタイムから帰宅時のお客様、週末は観光客やご家族、カップルの方でにぎわいます。店内レストラン「W」でくつろがれる方や、海外からの旅行者も多く、地下鉄虎ノ門駅直結のため手土産を探される方など、実に多様。
「多様なお客様のご要望に対し、ワイン売り場の限られたスペースで、何度来ても飽きない、毎回新たな発見をしてもらえるよう、季節や数量限定のワインを選んでいます」と加藤さん。一方で、リピートされるような年間を通じて品質の安定したワインも大切にしています。
造り手の情熱を感じる
ワイン選びにおいて、加藤さんが何より重視するのは産地を五感で感じること。
「感度の高いお客様に応えるためにも、毎年全国のワイナリーを訪ねています。生産現場を見て、生産者の想いを肌で感じることは、お客様にお伝えするうえで欠かせません。造り手のモノづくりへの哲学をじっくり伺い、それをお客様に伝えるのが私の仕事です」。
日本ワインの成熟
信濃屋はもともと輸入酒の専門店として95年の歴史を持ちますが、近年は日本ワインにも力を入れています。
「コロナ以降、日本産ワインの品揃えを意識的に増やしてきました。お客様の意識も変化していて、今では味わいや品質で世界のワインに引けを取りません。日本ワインの人気は、もはや一時的なブームではなく、しっかりと定着しています」。
ただし、ワイナリーの急増に伴い、見極めの重要性も高まっているといいます。
「各メーカーの規模や事情もありますが、本当に良いワインとは何かを考える必要があります。市場は常に味と価格のバランスを求めています。そこを見誤らないことが、長く愛される鍵です」。日本ワイン市場の成熟も意識し、加藤さんは語ります。
日常を彩るワイン「てぐみ」
信濃屋さんの全店で人気を集めるのが、丹波ワインの「てぐみ」シリーズ。全国で最も多く販売しているのも信濃屋さんです。
「地域密着の各店舗で、自信をもっておすすめできるワインとして定番化しています。発掘したワインが支持されると本当に嬉しいですね」。
加藤さんが「てぐみ」と出会ったのは五年前。
「京都・丹波ワインさんを訪ね、試飲して衝撃を受けました。酵母を残す無添加醸造、低アルコール、チャーミングなラベルデザイン、扱いやすいスクリューキャップ。そして何より、味わいと価格のバランスが見事でした。女性醸造家・内貴さんの熱意にも強く惹かれました」。
コロナ禍で閉塞感が漂う時期に、「てぐみ」のやさしい泡が気持ちを解きほぐしてくれたといいます。
「特別な日だけのワインではなく、日常に寄り添うワイン。それが『てぐみ』の魅力です。気軽に楽しめる身近な存在として、多くの方に受け入れられています」。
日本ワインの選択肢
輸入ワインの専門店でもありながら、日本ワインにも情熱を注ぐ―その理由を尋ねると、加藤さんはこう答えます。
「もちろん、日本ワインをもっと楽しんでほしいと思っています。けれど、日本産だから選ぶという時代は終わりました。今は品質・価格・楽しさ、そのすべてでお客様が納得できるかが重要です。輸入・日本産という枠を超えて、おいしいものを届けることが信濃屋の使命だと思っています」。
そして新しい挑戦
近年、加藤さんが注目しているのが北海道のワインです。
「毎年余市を訪ねていますが、葡萄の魅力や将来の可能性を強く感じます。気候変化の中で安定した品質を保つのは大変なことですが、それを支える造り手の努力に敬意を感じます」。
丹波ワインも数年前から洞爺湖畔での葡萄栽培を始め、フランスの有名醸造メーカーも函館に進出。
「北海道のテロワールにはまだ多くの可能性があります。海外からのお客様も日本の酒やワインに関心を持っており、幅広い層においしいと思ってもらえることが大切です。『てぐみ』も海外のお客様に非常に人気があります」。
これからの日本ワインのかたち
「私の実家は鳥取のフレンチレストランで、幼いころからワインが身近な存在でした。ソムリエとしての経験を経て、今こうして食とワインの世界に携われていることに、運命のようなつながりを感じます」と加藤さんは語ります。
「『てぐみ』は、日本ワインのある日常を象徴する存在。個性的だけど押しつけがましくない。特別だが画一的でもない、日々を少し豊かにしてくれるワインなんです」。
ワインを通して見えてくる、食と人のつながり。それを丁寧に伝え続ける信濃屋の姿勢が、これからの日本ワイン文化をさらに豊かにしていくはずです。
虎ノ門ヒルズの「cask」には、そんな楽しい日常があふれています。
休日の午後、ふらりと立ち寄ってみれば、きっと新しいワインとの出会いが待っています。
加藤さんが推薦する丹波ワイン
信濃屋 cask
東京都港区虎ノ門2-6-3 虎ノ門ヒルズ ステーションタワーB1F
【電 話】
0120-470-811
【web】
https://shinanoya.co.jp/newshop/cask.html












