造り手たちの想いと情熱

京都・丹波の地でワインを育てる「記憶に残るワイン造り」

そう語るのは、30年以上にわたって丹波ワインでワイン造りに携わってきた内貴麻里。彼女の横で、うなずきながら穏やかに話すのは、アメリカ・オレゴンでワイン醸造を学び、現在は醸造の中核を担う浅野玲緒奈。
京都の風土と向き合いながら、二人は今日も、グラスの向こうにいる誰かの笑顔を思い浮かべてワインを仕込んでいます。

ワインの道へ、一歩ずつ

西山(インタビュアー):お二人がワイン造りの道を選んだきっかけを教えてください。
内貴:私はモノづくりが好きで、地元・京都で何か手に職をつけたいと思っていたんです。30年前、丹波ワインに入社したのが始まりです。当時は、ワインづくりにどこか憧れのようなものもあって。でも、実際の現場は地道な作業の連続。失敗も多くて、自分のスタイルを築くまでには長い時間がかかりました。
浅野:私は大学卒業後にオレゴン州立大学でワイン醸造を学びました。ピノ・ノワールの魅力に惹かれて、いつか日本でも美味しいピノを造りたいと。その思いを胸に帰国後に丹波ワインに入社したのが2008年です。でも初日に仕込んだのは、まさかの10トンのデラウェア(笑)。心が折れそうになりました。

「洗うこと」から始まる、真摯な醸造

西山:ワインづくりで日々意識していることは?
浅野:とにかく「洗い物」ですね(笑)。内貴さんから「洗いに始まり、洗いに終わる」と教わりました。ワインも内貴さんも“生き物”なので、手を抜けばすぐに機嫌を損ねるんです。だから、丁寧に、誠実に向き合うことを大切にしています。
内貴:ぶどうの品質はもちろん、各工程の丁寧さが最終的な味に直結します。複雑な醸造方法に挑戦するにも、まずは衛生と基本が徹底されていなければ。美味しいワインの根底には、日々の積み重ねがあります。

丹波ワインらしさとは?―「柔軟さ」と「芯」

西山:丹波ワインならではの個性とは?
内貴:「柔軟さ」ですね。料理の味を邪魔せず、そっと寄り添える存在でありたい。中でもピノ・ノワールは、年々評価も高まり、今や当社の顔と言える存在になっています。栽培も醸造も本当に手のかかる品種ですが、長年の試行錯誤の積み重ねが、確かな手応えとなっています。
浅野:「柔らかさの中に一本の芯がある」――そんなワインを目指しています。個性を前面に押し出すというより、飲む人の心に自然に溶け込むような、品のある存在。内貴さんから引き継いだスタイルをもっと極めていきたいと思っています。

創業当時から栽培を続ける、ピノ・ノワールへの想い

ピノ・ノワールに込める京都の「出汁」の心

西山:丹波ワインのピノ・ノワール、どのような特徴があるのでしょう?
浅野:京都丹波で育ったピノ・ノワールは、海外のものと比べるとずっと淡い色合いで、果実味も穏やか。でもその穏やかさこそが私たちの個性だと考えています。飲んだときの柔らかさ、上品さ、そして余韻に残る旨味――そのバランスには常に気を配っています。
内貴:私たちが目指すのは、京都の「お出汁」のような味わい。目立ちすぎず、でも確かに心に残る、そんな静かな余韻のあるワインです。酸や甘味といった表面的な味ではなく、その奥にある旨みを大切にしています。
カメラマン(横から一言):うちの家では鍋に丹波ワインを合わせるんですが、家族にも好評なんですよ。

酸化防止剤無添加「てぐみ」スパークリングの挑戦

技術と哲学が詰まった「てぐみ」

西山:人気のスパークリング「てぐみ」もお二人の作品ですね。
内貴:はい、あれは出来た時に思わずほくそ笑みました(笑)。ぶどうの発酵を繊細に見守る必要があり、毎年様子が違うのでとても神経を使います。でもそのぶん、完成した時の喜びはひとしお。私たちの技術と哲学が詰まった一本です。

これからのワイン造りと、その先にある風景

西山:今後の目標を教えてください。
内貴:日本のワインも、もはや世界に負けない品質になってきました。日本各地のワイナリーが国際コンクールで入賞するのも、珍しいことではありません。私たちも、日本のぶどうで世界に通じるワインを造りたい。記憶に残る、そんな一本を目指しています。
浅野:日本ワインが京都の風景の一部になるような存在になればと思います。観光で訪れた方が、ふと飲んだワインで京都を思い出してくれるような。そんな体験を、造り手として裏側から支えていきたい。内貴さんの背中を追いかけながら、仲間とともに、丹波ワインの未来を育てていきます。どうぞ見守っていてくださいね。

読者の皆さんの手元に届いた一本が、誰かとの語らいや食卓に、やさしく寄り添えますように。そして、その向こうには、今日も京都・丹波の自然と、そこに生きる造り手たちの情熱があることを、少しでも感じていただけたら幸いです。

蔵人のおすすめワイン

京都丹波ピノ・ノワール ヴィエイユ・ヴィーニュ 2020 750ml

京都丹波の圃場で栽培した樹齢35年以上の古木のピノ・ノワールを1房ずつ手摘みし、木樽で19ヵ月間熟成させました。落ち着いた果実味と上品な樽香、タンニンに由来するほのかな渋みを感じることができます。生産本数の少ない稀少な逸品です。

  • ぶどう産地:京都丹波
  • ぶどう品種:ピノ・ノワール100%
  • 度数:13%
  • 容量:750ml
¥ 8,800 税込

京都丹波ピノ・ノワール 2022 750ml

自社農園産ピノノワール種を仏産小樽で熟成。果実香と樽熟香が調和した、本種独特のふくよかな味わいが楽しめるワイン。 ピノノワール種を日本で栽培しているワイナリーが少なく、丹波ワインがこだわりと情熱を持って丁寧に貴重な逸品に育て上げました。

  • ぶどう産地:京都丹波
  • ぶどう品種:ピノ・ノワール100%
  • 度数:12%
  • 容量:750ml
¥ 5,500 税込
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