造り手たちの想いと情熱
「京丹波の土地が育む、ひと粒の奇跡」
丹波ワインを支えるのは、この地のテロワールを深く知り、葡萄栽培に人生を捧げる二人の男。
彼らの手によって育てられた葡萄の一粒一粒には、並々ならぬ情熱と、自然との奇跡的な調和が息づいています。
これは京丹波の地で葡萄を育む、栽培家の物語です。
厳しい自然との対話
京都の北、山あいの京丹波の気候は、葡萄栽培にとって決して楽な土地環境ではありません。しかし、ベテランの栽培家である谷口と新人の岡市は、この厳しい自然こそが丹波ワインの葡萄に独特のテイスト「丹波ワインらしさ」を与えてくれると言います。
「丹波の葡萄は、決して楽に育つわけではありません。でも、その分、この地らしい生命力がひと粒ごとにあふれています」。
造り手たちの想いと情熱
谷口たちの朝は早く、まだ夜明け前の畑で、葡萄の樹と向き合います。新芽の伸び具合、葉の色艶、土の湿り具合。五感を研ぎ澄ませ、樹の状態を把握し、その日の手入れを決めていきます。病害のリスクを減らしつつ農薬は最小限に抑えるよう、代わりに一つひとつの樹を丁寧に観察して、早期発見早期対策を徹底します。
「健全で元気な葡萄を実らせるために、一期一会の気持ちで」。
「日射量や気温が気になり、風通しが気になり、雨の降り具合が気になり…まさに自然との対話です」。
そう語る二人の表情には、確かな誇りがにじんでいます。
丹波ワインの葡萄史
丹波ワインでは実に様々の品種を育てており、今や50種類を超えています。
ピノ・ノワール、タナ、サンジョベーゼ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなどの赤品種。シャルドネ、ピノ・ブラン、ピノ・グリ、セミヨン、ソーヴィニヨン・ブランなどの白品種。その多彩な顔ぶれは、気候や土壌に合わせて試験栽培を繰り返し、ようやくたどり着いたものです。穂木と台木の組み合わせを変え、生育や耐病性を一つずつ確かめながら、数十年をかけて今の畑が形づくられてきました。
2018年からは北海道・壮瞥(そうべつ)町でも栽培を始め、京丹波とはまた違った個性の葡萄が育っています。気候の異なる二つの土地での挑戦は、ワインの新たな表情を引き出す試みでもあります。
「自分たちで葡萄の声を聴き、皆さんに自信持ってワインを届けられると思うと、これからも夢が広がります」。
剪定に込める、未来への想い
農園作業は冬の剪定から始まり、誘引、芽かき、、摘芯と、秋の収穫期まで気が抜けません。一本の樹に実らせる葡萄の量を制限することで、残された葡萄に養分が集中してより糖度が高く風味豊かな実が育ちます。中でも特に心を砕くのが剪定です。
「剪定は、未来への期待。今年だけでなく、来年、再来年の樹の健康を思いながら枝を選びます。一本ごとに樹の表情を見て、対話しながらハサミを入れるんです」。
その言葉を受けて、若手の岡市は言います。
「僕は三年前に農学部を出て丹波に来ました。最初は何もかもが新鮮で、難しくもありましたが、先輩の谷口さんから毎日学んでいます。自分の手で触れた樹が、やがてワインになる。その循環を感じるたびに、この仕事を選んでよかったと思います」。
時には、実った房を惜しみなく落とすこともあります。その決断には、経験に裏打ちされた知識と、最高の味を届けたいという強い思いが込められています。
そして、収穫の時
夏の太陽をいっぱいに浴び、秋風に吹かれ、実が美しく輝く葡萄畑。収穫の時は、一年間の努力が実を結ぶ、二人にとって最も喜びに満ちた瞬間です。一房ずつ丁寧に手摘みされた葡萄は、すぐに隣の醸造所に運ばれ、ワインへと姿を変えていきます。しかし、時には鹿との戦いもあります。昨年は、手塩にかけた葡萄を半分以上食べられ…収穫時には、負けられない野生動物との戦いもあるのです。
醸造チームとの情報交換も重要な仕事。今年の生育具合やワインに出したい味や香りなど、やりとりを繰り返しながら、天気予報を見つつ最適な収穫時期を見極めます。
「いい葡萄なので、最高の仕込を頼みます!」「綺麗な葡萄できましたよ!」と醸造チームに想いを託します。
未来への一杯
谷口が特に思い入れを持つのは、ソーヴィニヨン・ブラン。
「果実味がありながら、酸とのバランスが良く、この土地の個性を一番感じます。ピノ・ノワールと並んで、丹波らしいワインに育っています。鹿も大好きみたいですけどね(笑)」。
一方、岡市はタナに惹かれています。
「この土地の気候が本当に合っていて、香りや果実味に独特の奥行きがあります。もっと多くの人に、この丹波の葡萄を知ってほしい。若い人たちにもぜひ飲んでもらいたいです。畑で見かけたら気軽に声をかけてください!」
二人の手で育てられた葡萄は、グラスの中で静かに香り立ち、京丹波の風と土、そして造り手の情熱を伝えます。

